#06 セローの弱点

拝啓

 つらつらとセローの長所を書き連ねてきましたが、別にセローがパーフェクトなバイクだとは思っていません。ダメなところもたくさんあります。

 最も気になるのは5速しかないギヤでしょう。225時代は6速だったのに250では5速になりました。軽量化のためか、小型化のためか、コストのためか、理由は知りません。しかし、スムーズなギヤの繋がり、高速巡行時のストレス減少、極低速のコントローラビリティ、細かなシチュエーションに対応できるクロスレシオ等々考えると、やっぱり6速がほしい。
 有名なところですが、225時代の1速はギヤ比がべらぼうに低かった。「スーパーロー」の呼び名は伊達ではなく、通常の舗装路では、1速でスタートして5mも走らないうちに2速にシフトアップしなければならないほど。忙しいったらありゃしない。でもそれが楽しかった。急がないなら2速発進で十分だったし。
 250の2速発進はかったるいので、普通に1速でスタートし、シフトアップしていきます。そして5速でスピードが乗ってきたところでさらにシフトアップ……、してしまうことがよくあります。5速のセロー250に乗ってもう15年も経つのに、いまだ存在しない6速に向けて左足をかき上げてしまう。6速のセロー250があれば、100万円出しても手に入れるでしょう。(ホントかな?)

フレーム

 セローに手を入れていく場合に弱点となるのがフレーム剛性の低さです。車重を軽くするため、剛性が犠牲になっているようです。
 225時代ですが、セローにロードタイヤを履かせました。私の使い方はほとんどがオンロードだし、そのほうがいいかな、と思ったわけです。そしたら、これがとんでもなかった。コーナーで深くバンクすると下のほうで「キシキシ、キシキシ」と音がするのです。“フレームが負ける”という現象は知ってましたが、音を聞いたのは初めてでした。ノーマルのオンオフタイヤは適度に滑り、そこでフレームにかかる応力を逃がしているわけですが、オンロードタイヤはグリップが良いためため、フレームが応力を全部受け止めることになります。そして剛性不足でフレームに泣きが入る、と。「これはあかん」と、ほうほうのていでタイヤをノーマルに戻した記憶があります。
 250になってフレームが新しくなりました。剛性も上がったのかなーと思いましたが、そうでもないようです。複数のYSP(ヤマハ売店)で聞いたところ、「んー、変わんないかなー」、「速度に関係なく、正面からイったらフレームが終わりますよ」ということでした。セローにロードタイヤを履かせた「XT250X」というバイクがありましたが、フレーム剛性は大丈夫だったのでしょうか? 乗ったことがなくてごめんなさい。
 Y'S GEARのパーツにフレーム剛性を上げる「パフォーマンスダンパー」がありますが、セローに手を入れていくなら、これがあったほうがいいかもしれません。タイヤをオンロードタイプに交換して負荷が上がっても、パフォーマンスダンパーが受け止めてくれる、と。どなたか試した方がいたら、教えてください。

 スペック以外でセローの弱点というと、軽二輪なのに原付に見えることでしょう。私は身長が180cm近くありまして、カミさんに言わせると、「セローがまるで原付のように見える」らしいのです。そういえば、身長170cm強の息子(もちろんバイク乗り)にセローを貸すと、妙にカッコよく見えたものです。
 いまとなっては押し出しの弱いスタイルはどうでしょうか? ただ、ワタシ的には回りを威嚇しない、戦闘的でないスタイルこそが本来のバイクのデザインだと思っているので、弱点とは思っていません。

 その他いろいろ考えてみたのですが、セロー、弱点が少ないです。
 パワーがなくて遅い(最高速が低い)という意見もあるようですが、120km/hも出るのだから十分ではないでしょうか? そこに至るまでの濃密な時間を考えれば、最高速なんてたいした問題ではありません。
 二人乗りはツライかもしれません。狭いですし、パッセンジャーが少し動くだけでハンドリングに影響します。でもまあスーパースポーツバイクの二人乗りに比べれば、十分に快適ではないでしょうか。
 225時代にはヘッドライトが暗くて難儀しましたが、250になって改善されましたし、いざとなればLEDに替えたり、フォグランプを追加してもいいんじゃないでしょうか。
 リアサスペンションのプリロードが調整しづらいのも気になるといえば気になりますが、他のバイクでも似たり寄ったりなので、まあ、仕方がないかな、と。

 そうこう考えていくと、セローは弱点の少ないバイクだなあ、と思います。軽くて燃費はいいし、整備性はべらぼうに良好だし(Fブレーキパッドなんて5分で換えられる!)、転倒しても壊れるところは少ないし、パーツは安いし、実によくできたバイクだと思います。セローは本当にスーパーなバイクなのです。

敬具

 

#05 セローに手を入れる

パフォーマンスダンパー


拝啓

 いろいろなパーツを組み込むのもバイクの楽しさのひとつ。マフラーやステップ、ブレーキなど、ショップに行けばいろいろなパーツがあります。きれいにカスタムされたバイクはカッコいいと思います。
 ですが、どうやら私はつまんない実用的な改造しかしないようです。現在乗っているセローもセッティングこそしましたが、改造というほどのことはしてません。ほとんどノーマルです。明らかに困る、不足しているという部分は手を入れますが、それ以外は手を入れません。以前乗っていたドゥカティも、ピストンを替えて圧縮比を上げたり、サスペンションを初期作動のいいものに交換しましたが、すべて必要を感じてのこと。ステップは最後までノーマルでした。「○○を付けたらカッコいい」的な発想は、私にはないようです。

 私がセローに組み込んだ数少ないパーツのひとつが「パフォーマンスダンパー」です。最初は「パワービーム」と呼ばれていた車体制振ダンパーです。
 “走行時の車体の変形及び振動をダンパーで吸収し、乗り心地、ハンドリングを向上させる”ということらしいですが、まあ、平たく考えてフレームの補強でしょう。最初に発売されたのがセロー用とSR400用というぐらいですから、どちらもフレームの剛性が低いわけで、セローにとって極めて妥当なパーツだと思います。
 パフォーマンスダンパーの、直進安定性が上がって長距離走行がラクになるといった高い評価は聞いていたのですが、なかなかふんぎりがつきませんでした。セローのオリジナルのハンドリングが好きだったし……。組み込んだのは、職場の変更のために通勤距離が一気に伸びたことがきっかけです。それまで片道10km強だった通勤がいきなり30km越え。しかもほとんどがつまらない一級国道。たらたら走るしかない道です。だったらツーリング指向でもいいか、と。

取り外したパフォーマンスダンパー

 で、パフォーマンスダンパーを買ってきて取り付けました。その効果は絶大。あっという間にらくちんセローができ上がります。まるで排気量が大きなバイクになったかのように安定性が増しました。乗り心地さえ良くなったような気がします。長距離のツーリングにはとてもいいアイテムだと思います。
 ですがこのパフォーマンスダンパー、私は数ヶ月で取り外してしまいました。そのあたり説明がむずかしいのですが、普通に走っていて99%はパフォーマンスダンパーありのほうが幸せです。まっすぐ走るし、気持ちいいし。でも、ギリギリの1%のところが満足できなかった。たとえば併走しているクルマが確認せずにいきなりハンドルを切って、こっちが逃げないといけないような場合、時間にしてコンマ数秒でしょうか。そのレスポンスが遅れるのです。やっぱりハンドリングが重い……。よいパーツなのですが、自由至上主義の私とはちょっと肌が合わなかった。

POWER BOX エキゾーストパイプ

「付けたいなー」と思いつつ、結局いまだに手を出していないのが、SP忠男さんの「POWER BOX エキゾーストパイプ」。絶対にいいパーツなのはわかっているのですが、装着しなかったのはノーマルセローのパワー特性にほとんど不満がなかったから。
 トライアル走行ならまた違うのかもしれませんが、街の中を走るレベルなら、私の欲しい中低速域のレスポンスやトラクションはノーマルで十分。セローはもともと高出力を求めても仕方のないバイクだし、マフラー(エキパイ)を交換するだけでパワーアップするわけでもなし。パワーが欲しければ他のバイクに乗ります。でも、POWER BOXを付けたらいいだろうなあ、というのは今も思っています。

エアインジェクションのキャンセル

 その他、現在にセローに装着している、というか取り外したのは、エアインジェクション。エアインジェクションキャンセラーともいいます。
 なにも問題なければいじりませんでしたが、セロー250は長く乗っているとアフターバーンが気になってきます。エンブレの際にパンパンとうるさいのです。セロー225時代はそんなことはなかったのですが、私の乗ったセロー250は3台ともパンパン音がしました。セロー250の持病ではないかと思っています(エアインジェクションのなくなったDG31Jはパンパンしないのかもしれません)。
 このエアインジェクションのキャンセルは、ノーマルパーツを流用して安く上げることもできるようですが、面倒なので「エアインジェクション カットキット」というセット物を買いました。そんなに高いものではないし、ていねいな取扱説明書も入ってて便利でした。「レスポンスが良くなった、トルクが太くなった」なんていう記事も目にしますが、多分に心理的なものでしょう。アフターバーンがなくなることが唯一最大のメリット。そういった症状の出てないセローは、手を入れる必要はないです。

オイルクーラー(SP武川)

 セロー250になってあまり聞かなくなりましたが、225時代にはオイルクーラーを付ける改造が多く見られました。オイル量は250が1200ccですが、225にいたっては1000ccしか入りません(いずれも交換時)。オイル的にはかなり厳しいエンジンなのです。取扱説明書には3,000km毎のオイル交換が指定されていますが、これは長すぎ。できれば2,000km毎で替えてやりたいところです。
 私がそれでもオイルクーラーを付けなかったのは、重くなるのを嫌ったのと、消耗品意識があったためです。セローはいいバイクだけど、華奢だからどう乗っても早くに壊れてしまう。だったら割り切って、壊れたら次のセローを買う、という感じです。

 若いころ、ドゥカティにはモチュールを入れ、セローにはクルマ用オイルの残りを入れたりしてました。消耗品だからオイルも適当でいいや、という意識です。しかし仲のいい整備士に指摘され、目が覚めました。

「どうせあんたのことだから、セローでもドゥカティみたいに走るんだろ?」

 あぁ、そのとおりです。セローに無理をさせたことは一度二度ではありません。異音がするまでブン回したこともあります。ごめんなさい。
 それからセローにもドゥカティと同じモチュールを入れるようになりました。300Vです。エンジンにも無理は(あまり)させないようになりました。バイクの用途や排気量は関係ないです。エンジンにどのくらい負荷をかけるかが問題なのです。

ブラッシュガード

 初めて買ったセローから現在のセローまで、必ず付けていたのが「ブラッシュガード」です。一般的にはハンドガードやナックルガードと呼ぶことが多いようですし、Y'S GEARや社外品でもそういった商品が出ています。でもおすすめは「ブラッシュガード」。いちばん安いヤツです。
 山の中を走っていて、小枝などが手が当たるのを防いでくれるというのが本来の用途ですが、街の中でも同じ効果があります。手入れされてない路肩の樹木が道路まで枝を伸ばしているシーンは少なくないのです。
 何より、冬でも手が温かい。バイク用の最強防寒具は郵便カブでおなじみのハンドルカバーですが、ブラッシュガードもそれに近い効果があります。もちろん同等とまでは言いませんが、風から手を守ってくれるだけでずいぶん違います。大きさと形状がいいのだと思います。都内に通勤しているころは、真冬でも軍手1枚で大丈夫でした。
 ペラペラのプラスチックでできていますから、割れることもあります。そのときはまた買えばいい。安いというのはなんとすばらしいことか。

TANAX キャリングコード3-V

 おまけ。装備というほどではないですが、セロー用の荷掛けヒモとして、TANAX (MOTOFIZZ)の「キャリングコード3-V」を愛用しています。4フックのゴムヒモですが、これが実にセローにピッタリ。使わないときはリアのグリップ部分に引っかけておけるし、いざ伸ばせば宅急便100サイズダンボール箱までしっかり固定できます。本当に便利です。
 リアボックスは好きではないのですが、この荷掛けヒモのおかげで、セローの積載で困ったことはありません。うまく使えば宅急便100サイズ以上の荷物を積むこともできます。騙されたと思って使ってみてください。高いものではありません。

敬具

#04 30km/hでフルバンクできますか?

 

拝啓

 結局のところ、バイクの魅力は“自由”なのだと思います。自由といっても制限速度や法規制を無視して好きなように爆走するとか、そういう話ではありません。自分の思い通りにバイクが動き、いつでもどこでも気持ちよく走ることができる、そういう自由です。セローは重心の低いオフ車ですが、これが甘美なまでの自由の入口なのだと思います。 

 オフ車はサスペンションのストロークを長く取るため、おおむね背が高い。ダートをスピードを上げて走ったり、ジャンプを楽しむとなると、タイヤの上下の動きを吸収する長いストロークが必要になるからです。まあ、長いサスはカッコいいしね。
 しかしセローはというと、それらを無視したところからスタートしてます。スピードは出さず、トコトコと山登りをする。場合によっては二輪二足で進むという考え方ですから、車高が高いとかえって都合が悪いわけです。
 もちろんロードスポーツほどサスを短くするわけにはいきません。ステアケース(階段状の段差)を下りたりしますから、ある程度の長さは必要です。それでも跳んだり跳ねたり系オフ車に比べると、はるかに背の低いのがセローです。

 背が低い、つまり重心が低いことは、安定性の高さに繋がります。ある意味、ネイキッドやアメリカンモデルなども同じで、神経質にならずに走れる一因です。まあ、セローは軽量ですし、重心が低いといっても“オフ車としては”というレベルなので、どっしりとした安定性のアメリカンを持ち出しても仕方ないですが。
 もうひとつ、セローの安定性を上げているのが大径のホイールです。オフ車ではおなじみのフロント21インチ、リア18インチの組み合わせですが、ロードスポーツに比べるとひとまわり大きい。つまりジャイロ効果が強いのです。これがタイヤのグリップを感じながら車体を右から左へと振り回すことができる安定感の要にもなっています。

グリップ

 で、本題。
 サーキットやワインディングで、ヒザを擦りながらフルバンクで走るバイクがあります。バイク雑誌でも見ることがあると思います。で、同じことを、住宅街の曲がり角、30km/hでできますか?
 答え:セローならできます。

 バイクは車体を傾けることで曲がる乗り物です。まっすぐ走るぶんにはアライメントやジャイロ効果、重心位置などで安定性を確保していますが、曲がるためにはどこかで安定性を崩し、きっかけを与えないといけません。それは腰を左右にずらすとか、ステップを踏み変えるとか、ハンドルへの入力とか、まあ、いろいろ方法はあるわけですが、いずれにしても、クイックに曲がるためには急激な操作が必要になります。車体の安定性を無視してバンクさせたら普通はコケます。しかしセローには先に挙げたような低重心だとか、大径ホイールだとか、急激な変化を補い、ライダーを支えてくれる安定性があります。だから安心して傾けることができるのです。

 さらに、フルバンクから起き上がるためには、何かしらの操作が必要になります。傾いたままではコケてしまいますから。荷重移動で起こすこともできますが、時間がかかるし面倒です。普通に使われるのはトラクションです。まあ“パワー”と思ってもらってもいいのですが、軽い荷重移動できっかけを与えておいて、あとはアクセル操作で車体を起こし、次の直線なりカーブに向かいます。これがいちばんラクです。
 中低速レスポンスのいいセローは、こういった動きがものすごく得意です。低重心や大径ホイールの安定感に守られているので、ぜんぜん怖くないです。思いどおりにクルリと回り込んでパンッと立ち上がる。笑っちゃうぐらい自由です。慣れてくると、住宅街の曲がり角でステップを擦ります。
 ただし、ノーマルのセローは安定性が強すぎ、曲がりを阻害する傾向があります。そこでレスポンスを良くする方策が必要になります。これが前提だと思ってください。

 背の低いオフ車はセロー以外にもいくつかありました。たとえばカワサキの「スーパーシェルパ」とか、ホンダの「SL230」とか。これらがセロー並みに走るかと問われれば、「難しいんじゃないかなぁ……」というのが私の答えです。
 セローほど乗り込んでないので実際のところはわからないのですが、おおむね、セロー以外のこういったバイクは、“誰にでも乗れるオフロードバイク”といった、ゆるいところをコンセプトにしています。対してセローは“マウンテンバイク”なり“二輪二足”という狙いが明確で、そのために各部を徹底的に作り込んでいます。これはスーパースポーツと同じです。そんなオフ車、他にはありません。

ステップ・シフト

 セローの特徴的な装備としてよく挙げられるのが前後のグリップ。車体を引き上げたり起こすときに使うものですが、まあこれは、二の次でしょう。まず挙げるべきは極端なバックステップです。正しいステップ位置を確保するための装備ですが、セローの場合、シフト機構にわずか数センチのリンクを使っています。これはコスト的にはないほうがいいはずですが、楽しく走るためにはとても重要な装備です。このバックステップがあるから自由に車体をコントロールできるのです。

ハンドル切れ角

 そして左右51°もあるハンドル切れ角。まるで自転車のようにハンドルが深く切れます。これもトライアル専用車から見れば少ないようですが、普通のバイクとしてみるとバカみたい深く切れます。このおかげで、渋滞している中でも、無理なく曲がっていけます。まあ、褒めた走り方ではありませんが、いつでも動けるという安心感は他に換えられるものではありません。

 いろいろなライダーを見てきました。「中高速域ならそこそこ速いけど低速では遅い」というライダーはたくさんいます。しかし「低速だときれいに曲がるけど高速では下手」というライダーに会ったことがありません。低速が上手いライダーは、高速も上手いのです。だから私は、低中速でべらぼうに運転の上手い白バイに歯向かったりしません。
 セローは、そういった低速でのバイクコントロールの大切さを教えてくれる、希有なバイクです。セローで覚えたライディングは大型バイクでも活かされます。今でもBMWで山へ行くたびに、セローのありがたさを感じています。

敬具

 

#03 セローを自在ハンドリングに

フロントフォーク突出し

拝啓

 ノーマルのセローのハンドリングは、基本的に“ダル”です。けっこう鈍いです。とても“キビキビしている”とはいえません。
 セローはオフ車。それもトライアルを志向しているバイクですから、岩ごろごろのガレ場なんかも想定されています。すると敏感なハンドリングはとても危険です。岩を乗り越えようとした瞬間にカクンとハンドルが切れたら普通はコケます。だからセローをコンセプト通りに乗る場合、ハンドリングはダルな方が正解です。

 しかし私のようにオンロード100%の使い方では、ちょっと塩梅が悪いことになります。せっかくの軽量&高レスポンスのマシンなのだから、もう少しハンドリングもクイックになってほしい。気持ちよく曲がって欲しいわけです。しかしセローでいじれる部分は限られています。フルアジャスタブルなんてとんでもない。普通に調整できるのはリアのプリロードだけ。プリロードはとても大切です。これがちゃんと合せてあるのとないのでは、バイクの動きがまるで違います。基本的には自分の体重と好みに合わせるのですが、それだけではセローのハンドリングは大幅には変化しません。
 そこで、フロントフォークの突出しを変えます。フォーク突き出し量の変更は、禁断の果実。ヘタにいじるととても危険なバイクになります。まっとうなチューニングの本や記事では触れてないこともあります。なので、フォークの突出し量を変えるなら、あくまで自己責任でお願いします。何かあっても責任が取れませんので。

 で、上のタイトル写真を改めて見てください。セローのフロントフォークを15mm突き出しています。これでセローの姿勢は少し前のめりになり、ハンドリングが劇的に変わります。異次元の軽快ハンドリングになります。
 ただ、15mmは多すぎるかもしれません。初めてなら10mmぐらいに止めておくのが無難です。1~2mmではわからないかもしれませんが、5mm変えれば絶対にハンドリングの変化がわかります。それぐらい突出し量の変更はシビアです。セローの場合、変えるにしても20mmが限界でしょう。それ以上やると、直線を走っていてタイヤが石を拾っただけで転倒するかもしれません。
 また、突出し量を増やすことで、フォークのストロークが短くなることも頭に入れておいてください。大きなギャップでは、タイヤがフェンダーの裏に擦るかもしれません。たぶん、その時にはコケていると思いますが……。

フロントフォークのカバー

 この写真は、アンダーブラケットのネジを隠しているフェンダーの黒いカバーです。セロー250になってから設けられたパーツですが、これがフロントフォーク調整にものすごく邪魔。いっそのことこのパーツを外してしまおうと考えたのですが、するとフェンダー本体の支えが弱くなってしまう。そこでカバーに穴を開けて、フロントフォークの調整をしやすくしました。
 セッティングが決まってしまえばいじることはありませんが、変更直後は日を置いて2度3度といじるもの。だったら穴を開けてしまおう、と。素人仕事なのでガタガタの穴ですが、まあ、実用上問題があるわけでなし……。
 ちなみにフロントフォーク突出し量を変える方法は、自分で考えるか、どこかで調べてください。方法がわからないようならいじらないほうがいいでしょう。

リアプリロード

 フォークの突出し量が決まったら、プリロードのやり直しです。バイクの姿勢が変わるので、プリロードの再調整は必須です。
 セローのプリロード調整は、リアだけでフロントにはありません。どうするかというと、まずはシッティングポイントを確実に決めます。座る場所の位置決めですが、これがあやふやだとセッティングは無理です。「ここがいい」「私はこのポジションがベスト」というポイントを決めたら、そこにまっすぐ上下に体重をかけて前後のサスペンションの沈み方を探ります。前後が同じように沈むのが私好み(たぶん万人向け)。フロントよりリアが多く沈むようならリアのプリロードを上げます。逆にフロントが沈むようならリアのプリロードを下げます。前後が同じように沈むようになったらプリロードはOKです。
 プリロードというと、車体を持ち上げてゼロ荷重を測ったり、面倒なことをするライダーもいるようですが、感覚優先で大丈夫です。バイクというのは、最後は感覚が優先する乗り物ですから。

ハンドル

 フォーク突き出し、プリロード調整までやると、次に気になるのはハンドル幅です。ノーマルでは問題がないのですが、フロントフォークを突き出してハンドリングをクイックにすると、ハンドル幅を長く感じます。
 ちょっと微妙な感覚ですが、運転するときハンドルに手を添えていますよね。バンクさせるとセルフステアでハンドルが切れていきますが、クイックなハンドリングにしていると、ハンドルを支えている手の重ささえもセルフステアを阻害しているように感じてしまいます。

 それで上のハンドルの写真ですが、何か違和感を感じますか? すぐに分かったら相当なセロー乗りだと思いますが、この状態でハンドルを左右とも15mmづつ詰めて(短くして)います。これで私的にはほぼベストのバランスとなりました。
 ハンドルを詰めるのは簡単。グリップやスイッチを外して、ハンドルの端っこを鉄ノコでギーコギーコと切るだけです。そのままでは切断面のバリが危険なので、ヤスリできれいにします。元どおりに組み直して終わり。半日あれば十分でしょう。

 どのぐらい詰めるかですが、これも左右各10mmが普通、20mmが限界でしょう。若いころ、加減がわからなくて30mmほど詰めたことがあります。するとハンドルが勝手に切れていくような、気持ちわるいハンドリングになりました。自分がコントロールしている感覚が希薄で、危険さえ感じるほどです。すぐにバイク屋に行って、ノーマルのハンドルバーをオーダーしました。やり直しのためです。ちなみにノーマルのハンドルバーはけっこう安いです。今でも4,000円ぐらいで買えるようです。
 と、フォーク突き出しと同じですが、ハンドルが短すぎるとオフロード走行がつらくなるかもしれません。オフロードでは道路のデコボコや石などにタイヤが取られることもありますが、それを押さえ込めるようにオフ車のハンドルは長くなっています。これを短くするのですから、弊害があって当然なのです。これも自己責任でお願いします。

 ここまでのセッティングでセローは劇的に変化します。タイトな道でもクルクルと旋回でき、安定性も十分確保できているという、楽しいハンドリングになるはずです。誰にでも勧められるようなものではないですが、まあ、参考になれば。

敬具

 

#02 乗り換えてわかるセローの良さ

セロー初代モデル(1KH)


拝啓

 セローの初代モデルは1985年に登場した「セロー225」(1KH)。セルスターターがなく、始動はキックのみでした。残念ながら、私はこのセル無しセローを所有していません(乗ったことはあります)。私が最初に手に入れたセローはセルの付いた1989年モデルです(3RW)。

 この初めて買ったセロー225の印象はというと、不思議なほど無感動でした。「けっこう走るじゃん。ハンドリングがちょっと重いかなぁ」程度のものでした。
 というのも仕方ないところがあって、当時の私は「ドゥカティ900SS」(1989モデル)に乗り始めたころで、奥深いラテンなハンドリングにとっぷりハマりつつありました。セローに強烈なキャラクターを感じるような余裕はなかったのです。
 セロー自体、それまで乗っていた「ホンダ MTX200R」からの買い替えでした。MTXは2ストのカリカリモデル。バカみたいにパワーがあって、回転を合せれば簡単にウイリーするし、煙がひどくてツーリングに行くと最後尾しか走らせてもらえないという、とんでもないバイクでした。その反動もあって「足代わりに気軽に乗れればいい」と購入したセローなわけで、特別に心動かされなくても、こんなもんだろうと納得してしまったのです。

 

セロー225(3RW)1989年

 もうひとつ、いまだからわかる無感動の理由は、セローのバランスの良さでしょう。パワーも車体もものすごく高いレベルでバランスが取れているため、突出した部分がない、つまりはインパクトが感じられない、というバイクなのです。
 これは20年後にも同じようなことを経験しました。私の好きなバイクのひとつに「ヤマハ FZ1 フェーザー」があります。ワインディングもツーリングも街乗りも、どんなシチュエーションでも高いレベルで応えてくれる、とてもいいバイクです。
 出先で偶然フェーザーのオーナーと話すことがありました。大型バイクはこのフェーザーが初めてという若いライダーです。私が「これ、いいバイクなんですよね」と言うと、「みんなにそういわれるんですが、何がいいかわからないんです」との答え。思わず笑ってしまいました。「次のバイクに乗り換えたときに、フェーザーの良さがわかりますよ」と伝えておきました。

 閑話休題、最初のセロー225購入から数年経過、ずいぶんボロくなってきたので「XR250」に乗り換えることにしました。ホンダ伝統のオフロードモデルです。「XLR250」のころから一度乗ってみたいと思っていた憧れのバイクでした。
 しかしこのXR、いいバイクなのですが、どうにも私にフィットしない。シートが高いので気を遣うし、ハンドリングも思っているのと違う。全体に動きが重い。エンジンもある程度は回ってないとレスポンスが遅れる……。結局、XRを手放してセローに買い替えることにしました。3ヵ月ほどしか乗ってません。私のバイク歴の中で最短となりました。

セロー225WE(4JG)1997年

 私の2台目となったセローは、10Lタンクの「セロー225WE」(4JG)。リアブレーキはディスクになっていました。
 ファーストインプレッションはというと「これだよ、これっ!」って感じ。WEになってタンクだけでなく、外装も一新され、細部まで変更されてました。しかしセローはやっぱりセロー。取り回しは軽いし、レスポンスもハンドリングも素直。大きくなったタンクは以前よりもフィットするし、なにより両脚がぺったり着く。やっと自宅に帰ってきたような安心感でした。
 結局のところ、セローの乗りやすさ、レスポンスの良さ、速さなど、その魅力はバランスの上になり立っています。突出したものがないからわかりづらい。それが理解できたのは、セロー以外のバイクに乗り換えてからでした。
 もうひとつ、セローのキャラクターを支えている重要なポイントは、“重心の低いオフ車”ということですが、これはとても奥が深いです。簡単には書けません。また後日まとめたいと思います。

 セロー225WEの最大のポイントは、リアタイヤがチューブレスになったことでしょう。トライアル走行などで空気圧がぐっと下げられるのもメリットですが、パンクしても簡単にはエアが抜けず、ガソリンスタンドでも簡単に修理できるのがすばらしい。私もこのチューブレスに2度ほど助けられました。先方の会社で打合せがある日、セローで出かけたのですが、途中で釘をひろってパンク。それでもとりあえず走り続け、仕事が終わってからパンク修理しました。チューブレスでないと、こんな芸はできません。
 XR250で一番いいなと思ったのは、時計が付いていることでした。当時のセローは超アナログ。そんなものはついてません。速攻で100円ショップの時計を購入し、セローのハンドルに取り付けたものです。
 このセローWE、残念なことに早々に事故でつぶしてしまいました(0:10で相手の過失)。入ったお金で同じセローを購入。3台目も同じ「4JG」となりました。

セロー250(DG11J)2005年

 数年後、へたったWEの代わりに手に入れたのが2006年モデルの「セロー250」(DG11J)。250cc化されたセローで、フレームも含めてフルモデルチェンジしたモデルです。ただし、キャブレターでした。
 このセロー250、ずいぶん批判がありました。「重くて山登りには向いてない」「しょせんツーリングバイク」等々。乗ってみると、確かにそういった傾向はありました。ただ、私の場合はほとんどがオンロード走行。多少の重量増よりも、パワフルさや安定感などのほうがうれしかったのも確かです。
 何より、タイヤサイズをはじめ、ブレーキパッドなどは225時代から全く変更なし。買い溜めていたストックがそのまま使えたのです(結局、最終モデルまで変わらず)。セローは250になってもセローだったのです。

セロー250(DG17J)2012年

 5台目のセローは、最終モデルまでつながるインジェクションのセロー250 (DG17J)です。ヒマラヤカモシカのカラーリングでした。インジェクションを採用し、セローは225時代のキャラクターに戻ったと感じました。すばらしくいいバイクです。最高出力は21PSから18PSへと大幅にダウンしましたが(笑)。
 インジェクションになって低中速のレスポンスが格段に良くなりました。トラクションも向上し、右へ左へ、思いどおりに動いてくれます。もう楽しくてたまりません。おまけに速い。見かけ上の最高出力は下がっても、実質的な速さは上がっているのです。「80km/hまでの最速マシン」というのは、インジェクションセローに乗って浮かんだ言葉です。ただ、この5台目のセローもいきなり飛び出してきたバイクにつぶされてしまいました。

 6台目のセローは、5台目と同じDG17Jですが、年式は2017年まで上がりました。この翌年、2018年モデル(DG31J)からセローはキャニスター付きとなりました。排ガスをよりきれいにするためのようです。
 同時にLEDテールランプになったのですが、どうもこれは、ナンバープレートの取り付け角度を変えるためらしいです。比べて見てもらうとわかりますが、それまでのセローは「おいおい、ヤンキーかよ」っていうぐらい、ナンバープレートが上を向いていました。追尾するパトカーや白バイから確認しづらいほどの角度です。それまではお咎めなかったのですが、どうもこれがアカンらしいとなりました。しかしナンバーの角度変更だけでは無理があるので、同時にLEDを採用してモデルチェンジの態を保った、ということのようです。

 セロー誕生は1985年。現在(2023年)で38年経っています。そのうち、私は34年間をセローとともに過ごしてきました。とても幸せなバイクライフだったと思っています。

敬具

 

#01 セロー、本当のスーパーバイク

拝啓

 はじめまして。尻子玉といいます。バイク乗りです。還暦になりました。まあ、ジジイの繰り言のようなブログですが、よろしければお付き合いを。

 現在(2023年12月)、私がメインに乗っているのは2017年式のセロー250 (DG17J)です。これが私の6台目のセローになります。初めてセローを手に入れたのが1989年(3RW)ですから時間にして34年。よくもまあ、これだけ同じ車種に乗ってきたと自分でも思います。セローに乗り続けた理由は、セローが本当にスーパーなバイクだったからです。もう、それしかありません。

 オフ車としてのセローの評価は広く知られているとおり。モトクロスコースを跳んだり跳ねたりするのではなく、山道をトコトコと二輪二足で登っていくような、トライアル車に近いところをコンセプトにしています。そういったシチュエーションで、セローは無類のパフォーマンスを見せてくれます。
 とはいうものの、私はオフロードはほとんど走ってません。若いころはあちこちで遊んだりしたのですが、いまは100%オンロード。それでもセローの評価は下がりません。むしろ、オンロードだからこそセローが楽しく、スーパーなバイクなんだと感じています。

 セローの特徴は、車重の軽さと低速域でのレスポンスの良さ、そしてオフ車としては低い車体、といったところでしょう。
 セローのレスポンスについて。ほとんど歩いているような速度でアクセルをいきなり開けても、ポンとエンジンが反応します。まあ、トライアル志向のオフ車なので当たり前といえば当たり前ですが、オフ車でもそうでないエンジンがけっこう多いのです。
 車体の低さもセローの魅力。シート高830mmという数値だけ見るとかなり高そうですが、セローはオフ車。跨がるとシートは簡単に沈みますし、シート幅が狭いので脚がまっすぐ下ろせます。いざコケそうになっても、車重が軽いので「おっとっと……」と最後のところで持ちこたえることもよくあります。
 何より、車体が低いということは重心が低いということです。バイクにとって重心の低さは絶対条件ではありませんし、ある程度重心が高いほうが車体のコントロールがしやすいのも事実。ヤマハのロードスポーツのシート高が高いのは、これが理由です。とはいうものの、サスペンションの長い跳んだり跳ねたり系オフ車はいくらなんでも重心が高すぎでしょう。オンロードでは素直なハンドリングになりません。セローは重心位置が絶妙なのです。

 このセローの低速エンジンと低重心は、街中でむちゃくちゃ頼もしいのです。街の中で使う速度はせいぜい80~100km/hまで。その速度域でセローは無敵です。こちらを確認しないで幅寄せしてきたクルマをスッとかわし、次の細い路地にクルリと曲がりこむ、なんてことが当たり前に、普通にできます。
「セローは遅い」と思っている人が多いようですが、そんなことはありません。セローは速いです。80km/hまでで、セローより速いバイクを知りません。たった18PSしかありませんが(DG17J)、都内では最速でした。街中でいい勝負ができたのは、スズキの「アドレス V125」ぐらい。あれは速かった。
 いまはもう無茶しませんが、若いころは、都内で汚い走り方をするレプリカやスーパースポーツを見つけると、セローをハイビームにして追いかけたものです。セローでも開ければ120km/hぐらい出ます。それが混んだ街の中でも出せるのがすごいところ。さらに渋滞するクルマの間を安定したままクランク状に走れる自在のハンドリングと組み合わされているのですから、セローが遅いはずはないのです。都内でスーパースポーツに乗っているような人はセローを甘く見ていることが多い。でもってぶち抜かれて終わり。スペックを過信して汚い走り方をしているライダーは、おおむねヘタクソです。

 ちょっと話がずれました。要は、セローはとてもいいバイクだ、ということです。
 セローの魅力のひとつは万能性。シチュエーションを選ばず、どこでも走れます。セローは軽二輪なので、高速道路もOK。オフ車なのでオフロードも得意です。つまりは、他のバイクで走ることができて、セローで走れない道路は存在しないのです。もちろんセローの高速走行は快適といいません。かなりツライです。しかし、いざ走ることになればちゃんと走ります。セローですから。
 セローの万能性が活かされたのは、東日本大震災の時でした。歩いて帰宅する人があふれ、クルマが渋滞で全く動けない国道をスムーズに走り抜け、カミさんを職場まで迎えに行き、さらに水が流れて砂の浮いた道を走って息子を学校までピックアップに行きました。セローでないとできなかったと思います。

スーパーバイク」というと、市販車を改造したレースのカテゴリーを指すことが多いようです。でも本当の意味で“スーパーなバイク”を考えるなら、セローがそれに最もふさわしいのではないかと思います。

敬具