#02 乗り換えてわかるセローの良さ

セロー初代モデル(1KH)


拝啓

 セローの初代モデルは1985年に登場した「セロー225」(1KH)。セルスターターがなく、始動はキックのみでした。残念ながら、私はこのセル無しセローを所有していません(乗ったことはあります)。私が最初に手に入れたセローはセルの付いた1989年モデルです(3RW)。

 この初めて買ったセロー225の印象はというと、不思議なほど無感動でした。「けっこう走るじゃん。ハンドリングがちょっと重いかなぁ」程度のものでした。
 というのも仕方ないところがあって、当時の私は「ドゥカティ900SS」(1989モデル)に乗り始めたころで、奥深いラテンなハンドリングにとっぷりハマりつつありました。セローに強烈なキャラクターを感じるような余裕はなかったのです。
 セロー自体、それまで乗っていた「ホンダ MTX200R」からの買い替えでした。MTXは2ストのカリカリモデル。バカみたいにパワーがあって、回転を合せれば簡単にウイリーするし、煙がひどくてツーリングに行くと最後尾しか走らせてもらえないという、とんでもないバイクでした。その反動もあって「足代わりに気軽に乗れればいい」と購入したセローなわけで、特別に心動かされなくても、こんなもんだろうと納得してしまったのです。

 

セロー225(3RW)1989年

 もうひとつ、いまだからわかる無感動の理由は、セローのバランスの良さでしょう。パワーも車体もものすごく高いレベルでバランスが取れているため、突出した部分がない、つまりはインパクトが感じられない、というバイクなのです。
 これは20年後にも同じようなことを経験しました。私の好きなバイクのひとつに「ヤマハ FZ1 フェーザー」があります。ワインディングもツーリングも街乗りも、どんなシチュエーションでも高いレベルで応えてくれる、とてもいいバイクです。
 出先で偶然フェーザーのオーナーと話すことがありました。大型バイクはこのフェーザーが初めてという若いライダーです。私が「これ、いいバイクなんですよね」と言うと、「みんなにそういわれるんですが、何がいいかわからないんです」との答え。思わず笑ってしまいました。「次のバイクに乗り換えたときに、フェーザーの良さがわかりますよ」と伝えておきました。

 閑話休題、最初のセロー225購入から数年経過、ずいぶんボロくなってきたので「XR250」に乗り換えることにしました。ホンダ伝統のオフロードモデルです。「XLR250」のころから一度乗ってみたいと思っていた憧れのバイクでした。
 しかしこのXR、いいバイクなのですが、どうにも私にフィットしない。シートが高いので気を遣うし、ハンドリングも思っているのと違う。全体に動きが重い。エンジンもある程度は回ってないとレスポンスが遅れる……。結局、XRを手放してセローに買い替えることにしました。3ヵ月ほどしか乗ってません。私のバイク歴の中で最短となりました。

セロー225WE(4JG)1997年

 私の2台目となったセローは、10Lタンクの「セロー225WE」(4JG)。リアブレーキはディスクになっていました。
 ファーストインプレッションはというと「これだよ、これっ!」って感じ。WEになってタンクだけでなく、外装も一新され、細部まで変更されてました。しかしセローはやっぱりセロー。取り回しは軽いし、レスポンスもハンドリングも素直。大きくなったタンクは以前よりもフィットするし、なにより両脚がぺったり着く。やっと自宅に帰ってきたような安心感でした。
 結局のところ、セローの乗りやすさ、レスポンスの良さ、速さなど、その魅力はバランスの上になり立っています。突出したものがないからわかりづらい。それが理解できたのは、セロー以外のバイクに乗り換えてからでした。
 もうひとつ、セローのキャラクターを支えている重要なポイントは、“重心の低いオフ車”ということですが、これはとても奥が深いです。簡単には書けません。また後日まとめたいと思います。

 セロー225WEの最大のポイントは、リアタイヤがチューブレスになったことでしょう。トライアル走行などで空気圧がぐっと下げられるのもメリットですが、パンクしても簡単にはエアが抜けず、ガソリンスタンドでも簡単に修理できるのがすばらしい。私もこのチューブレスに2度ほど助けられました。先方の会社で打合せがある日、セローで出かけたのですが、途中で釘をひろってパンク。それでもとりあえず走り続け、仕事が終わってからパンク修理しました。チューブレスでないと、こんな芸はできません。
 XR250で一番いいなと思ったのは、時計が付いていることでした。当時のセローは超アナログ。そんなものはついてません。速攻で100円ショップの時計を購入し、セローのハンドルに取り付けたものです。
 このセローWE、残念なことに早々に事故でつぶしてしまいました(0:10で相手の過失)。入ったお金で同じセローを購入。3台目も同じ「4JG」となりました。

セロー250(DG11J)2005年

 数年後、へたったWEの代わりに手に入れたのが2006年モデルの「セロー250」(DG11J)。250cc化されたセローで、フレームも含めてフルモデルチェンジしたモデルです。ただし、キャブレターでした。
 このセロー250、ずいぶん批判がありました。「重くて山登りには向いてない」「しょせんツーリングバイク」等々。乗ってみると、確かにそういった傾向はありました。ただ、私の場合はほとんどがオンロード走行。多少の重量増よりも、パワフルさや安定感などのほうがうれしかったのも確かです。
 何より、タイヤサイズをはじめ、ブレーキパッドなどは225時代から全く変更なし。買い溜めていたストックがそのまま使えたのです(結局、最終モデルまで変わらず)。セローは250になってもセローだったのです。

セロー250(DG17J)2012年

 5台目のセローは、最終モデルまでつながるインジェクションのセロー250 (DG17J)です。ヒマラヤカモシカのカラーリングでした。インジェクションを採用し、セローは225時代のキャラクターに戻ったと感じました。すばらしくいいバイクです。最高出力は21PSから18PSへと大幅にダウンしましたが(笑)。
 インジェクションになって低中速のレスポンスが格段に良くなりました。トラクションも向上し、右へ左へ、思いどおりに動いてくれます。もう楽しくてたまりません。おまけに速い。見かけ上の最高出力は下がっても、実質的な速さは上がっているのです。「80km/hまでの最速マシン」というのは、インジェクションセローに乗って浮かんだ言葉です。ただ、この5台目のセローもいきなり飛び出してきたバイクにつぶされてしまいました。

 6台目のセローは、5台目と同じDG17Jですが、年式は2017年まで上がりました。この翌年、2018年モデル(DG31J)からセローはキャニスター付きとなりました。排ガスをよりきれいにするためのようです。
 同時にLEDテールランプになったのですが、どうもこれは、ナンバープレートの取り付け角度を変えるためらしいです。比べて見てもらうとわかりますが、それまでのセローは「おいおい、ヤンキーかよ」っていうぐらい、ナンバープレートが上を向いていました。追尾するパトカーや白バイから確認しづらいほどの角度です。それまではお咎めなかったのですが、どうもこれがアカンらしいとなりました。しかしナンバーの角度変更だけでは無理があるので、同時にLEDを採用してモデルチェンジの態を保った、ということのようです。

 セロー誕生は1985年。現在(2023年)で38年経っています。そのうち、私は34年間をセローとともに過ごしてきました。とても幸せなバイクライフだったと思っています。

敬具